心室細動を起こす原因
急性心筋梗塞症
拡張型心筋症
肥大型心筋症
Brugada症候群
不整脈源性右室異形成症
QT延長症候群
カテコラミン誘発性心室頻拍
その他の疾患および身近な例

沖重 薫

横浜市立みなと赤十字病院
心臓病センター長
<専門>
臨床不整脈、心臓性突然死、
特発性心筋症、
カテーテル・アブレーション手術

横浜市立みなと赤十字病院

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 つい先ほどまで元気だった人が、一瞬にして命を失ってしまう「心臓性突然死」。心臓性突然死を惹き起こす原因にはさまざまながものがあります。先天性の病気による場合もあれば、年齢による心臓機能障害、風邪や下痢などの軽い病気、アルコールや食生活などの生活習慣、入浴や運動などの日常の活動など、意外なほど身近に心臓性突然死につながる危険が潜んでおります。

 前章「心臓突然死とは?」でご説明した通り、心室細動こそが心臓性突然死の原因病態および最終病態です。心室細動をきたす原因となる疾患や病態は数多くあります。これから心臓突然死につながる疾患の数々をご説明します。


図)植込み型除細動器の適応となった重症心室頻拍または心室細動例1,075例の原疾患
心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版),P3. 日本循環器学会

急性心筋梗塞症   拡張型心筋症   肥大型心筋症
Brugada(ブルガダ)症候群   不整脈源性右室異形成症(催不整脈性右室心筋症)
QT延長症候群   カテコラミン誘発性心室頻拍   その他の疾患および身近な例

 心臓は24時間・365日、絶えず支障なく動き続けなければなりません。そのためには、心臓の筋肉に、「酸素を含んだ血液」という栄養を供給する必要があります。心臓の組織に栄養を供給している血管を「冠動脈」とい言います。

 冠動脈に障害がある場合は、冠動脈を通した血液循環が不十分なために、心臓が栄養不足となり「胸部圧迫感」や「胸痛」などが起こります。これらは「狭心症」と呼ばれる病態です。

 動脈硬化の種類によっては、冠動脈内腔の被膜下に「糠(ぬか)」状の病変を作り、被膜が破れる事でその周辺の血液が凝固し“血栓”を形成して、冠動脈の全内腔を閉鎖してしまう事があります。その結果心組織にまったく血液が届かなくなり、急激に細胞が死滅していきます。この一連の現象が急性心筋梗塞の病態です。こうなると「胸に杭が突き刺さる」ような症状となります。

 心臓細胞が死に始めると、心臓の電気的な状況が不安定になり、重篤な不整脈が起きやすくなります。とくに急性心筋梗塞を発症してから72時間は、致死性不整脈がいつ起こってもおかしくありません。本来絶対安静をとり、一刻も早く医療施設に搬送されなくてはならない急性心筋梗塞ですが、発症しているのに平気で普段と同じように行動していることもありえます。治療が遅れれば遅れるほど、心臓が無理をすることになって、急性心不全を合併したり、心室細動などを惹起して突然死という悲惨な結果にもなりえます。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “17 突然心臓が腐る!急性心筋梗塞”(P113) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 心臓のポンプ機能が適切に働くためには、収縮と拡張が円滑に行われ続けることが必須です。拡張型心筋症は、この収縮機能が障害されている疾患です。血液を送り出す力が弱くなり、心機能が低下します。

 ウィルスによって心臓の組織に強い炎症(心筋炎)が起きると、“繊維組織”が造られます。繊維組織とは傷などを治癒した際にできる“瘢痕”を形成する組織です。心筋炎後にこの繊維組織が心臓内に広範囲に生まれると、心臓の筋肉の機能が大きく障害され拡張型心筋症となります。

 拡張型心筋症は、しばしば心不全を起こし、心臓の電気的な状態が不安定になります。薬などで心不全を脱しても、広範囲に生じた瘢痕(繊維組織)が重篤な致死性不整脈を起こしてしまいますので、突然死の危険性は残ります。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “4 たかが風邪、されど風邪”(P44)、“拡張型心筋梗塞の恐怖”(P49)、“14 過度のアルコールが心臓を蝕む”(P100) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 常日頃から運動するように心掛けている人にも起こりうる心臓性突然死。原因の一つは生まれつきの心臓病(先天性心疾患)で、中でもとくに多いのは肥大型心筋症です。

 心臓は、上半分が心房、下半分が心室と呼ばれます。心房組織の厚さは数mmで、左右で大きく変わらないのに対し、心室の厚さは右側と左側で大きく異なります。右室は数mm〜5mm前後なのに対して、左室は10mm〜10mm強です。この左室筋が異常に厚い病気が、肥大型心筋症です。心臓の筋肉が厚過ぎると心臓の拡張機能が損なわれ、その影響により収縮にも支障をきたしてしまいます。

 肥大型心筋症が持続すると、急激に血圧が低下し、血液が脳や冠動脈に十分循環せずに意識障害を起こしたり、心臓が“虚血”(栄養不足状態)状態になります。重度の虚血状態が続くと、重篤な致死性不整脈が出現し、心臓性突然死にいたります。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “6 マラソンや激しい運動時の突然死”(P56) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 1992年に世界的に著名な欧州在住の不整脈専門医ブルガダ(Brugada)医師によって報告された心疾患で、今ではこのブルガダ症候群こそが東南アジアで報告されてきた「夜間突然死症候群」や、日本で「ぽっくり病」とされてきたものの、主たる原因と考えられています。

 ブルガダ症候群は非常に稀な疾患で、発見するのが難しい病気です。患者によっては常にブルガダ症候群の心電図所見を呈するとは限らず、さらに心電図所見が時により異なる患者は、一定の心電図所見を呈する患者に比べて、突然死の危険性が高いことがわかっています。

 また、安静時や睡眠時に心室細動が起こって突然死にいたること、圧倒的に男性患者が多いこと、西欧人よりもアジア人に多いことなどが特徴です。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “8 ぽっくり病の実態、ブルガダ症候群”(P67) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 不整脈源性右室異形成症とは、1982年にフランスの専門医から、20〜30代の若者の心臓性突然死の原因のひとつてして報告されました。この疾患は心臓の筋肉組織が長い年月をかけて徐々に脂肪組織に置き換わっていく病気で、約50%は遺伝性とされ、残りの50%は遺伝子の突然変異とされています。

 不整脈源性右室異形成症の病態は、右室の正常な心筋組織が減少し、心機能がはなはだしく障害されます。脂肪組織に広範囲に置き換わると、心臓全体の機能が損なわれ、心不全が惹き起こされます。より深刻な問題は、脂肪組織に置き換わった部位が原因で、重篤な心室性の不整脈(心室頻拍や心室細動)が起こってしまいます

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “10 運動選手の心臓が脂肪に侵されてしまう”(P79) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 心電図上のQT間隔(心臓が興奮し回復するまでの時間)が長い場合があります。QT間隔が延長する事で、トルサード・ドゥ・ポアンという心室細動が出現し、失神を惹き起こします。心室細動が一過性で終わらず持続した場合は、心臓性突然死に至ります。

 このQT延長症候群の原因には、先天性のイオンチャンネル異常の場合と、薬剤の相互作用などにより後天的にQT間隔が延長する場合があります。

 先天性のQT延長症候群の60〜70%の家系で遺伝子異常が発見されています。これまで発見された遺伝子異常は10種類で、異常を示すイオンチャンネルの違いによっていくつかのタイプに分かれ、失神や心室細動を起こすタイミングも異なります。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “9 夜間の電話で突然死!?”(P74)、“2 なぜ河童と言われる子供が溺れるのか?”(P31) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

 カテコラミンとは、運動中は必要に応じて血圧を上げたり、心臓を含めた全身の筋肉の力を強めたりするホルモンです。カテコラミンには心臓を興奮させる作用がり、心臓に異常組織が存在する場合、悪く作用して重篤な不整脈を起こすことがあります。カテコラミン誘発性心室頻拍は、好発年齢が10才前後と、学童期に突然死する危険性がある疾患です。

書籍「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機 “12 運動最中の若者が突然死する理由”(P89) では、より詳細に身近な例を取り入れた内容が記載されております。

書籍「突然死の話」では、日常生活に起こりうる様々なケースや実例を取り入れ、更に詳しく紹介しております。上記疾患以外の疾患についても紹介しておりますので、是非ご一読下さい。持ち運びに便利な文庫本で、書店の棚に並んでおります。

「突然死の話」第二部 意外に身近な20の危機

1. 心臓が自分の力で動けなくなる
2. なぜ河童と言われる子供が溺れるのか?
3. 危険な失神、大丈夫な失神
4. たかが風邪、されど風邪
5. 拡張型心筋梗塞の恐怖
6. マラソンや激しい運動時の突然死
7. リエントリー現象という神秘
8. “ぽっくり病” の実態、ブルガダ症候群
9. 夜間の電話で突然死!?
10. 運動選手の心臓が脂肪に侵されてしまう
11. 骨折の手術の危険性と“エコノミー症候群”
12. 運動最中の若者が突然死する理由
13. 野球プレー中の心臓振盪
14. 過度のアルコールが心臓を蝕む
15. 下痢・嘔吐で突然死
16. やせ薬で突然死?
17. 突然心臓が腐る!急性心筋梗塞
18. 高齢化でますます増える心房細動
19. 楽しい入浴に潜む危険性
20. 突発性心臓性突然死の数々

突然死の話
あなたの心臓に潜む危機
(中公新書)
沖重 薫著


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